【椿information】2023-5-25
『らんまん』オープニングの椿
2023年4月から「日本の植物学の父」といわれる植物学者の牧野富太郎をモデルにしたNHK朝ドラ『らんまん』が始まりました。ドラマでは名前が万太郎ですが、出身が土佐(高知県)で酒造業などを営む裕福な商家で生まれたこと、旧制小学校を中退して植物三昧の日々を送ったこと、上京して東京大学理学部植物学教室に出入りを許されて研究に没頭するところまで本人と同じです。
朝ドラでは様々な植物がでてきますが、オープニング動画に椿のカットもちゃんとありました。
牧野富太郎(1862-1957)について
牧野が生まれた4月24日(文久2年)は彼の功績を称えて「植物学の日」に制定されています。記念日ができるほどの功績とは、日本の植物分類学の基礎を築いた一人であることと、広く一般に植物学知識を普及させることに尽力したことでしょう。
具体的には、
・日本全国をまわって約40万枚もの植物標本を作製。
・新種や新品種など約1500種類以上の植物の特徴を学術的に記載し、学名を付けた。(ヤマトグサを新種として発表して日本人として初めて新種に学名を付けたことにはじまる)
・種の個体差を超えた平均な全体像を、緻密に描く「牧野式」植物図を確立
・全国規模の植物知識の教育普及活動。(各地で観察会、講演会、園芸学校や高等学校でも講義を行い、研究家や愛好家からの個別の問い合わせにも対応した)
・『牧野日本植物図鑑』の出版。(ほかにも出版多数)
・2種類の学術雑誌『植物学雑誌』と『植物研究雑誌』の創刊に係わり、研究発表の場を作った。
等が挙げられます。
『牧野日本植物図鑑』
1940年の初版以降、現在も重版されている『牧野日本植物図鑑』(北隆館)は、日本植物図鑑の先駆けです。それまでにも「大日本植物志」などいくつもの植物図譜を発行していたものの完成には至らず、念願の本書を刊行できたのは東京帝国大学退官後の1940年(昭和15年)、富太郎78歳の時でした。
本書にはツバキが次ように記載されています。
現代語にすると以下のような感じでしょうか。
「つばきは、日本各地の山地に生育する常緑高木で、その変種は観賞用として広く庭園に植栽される。全体に無毛で、密に茂る緑色の葉は有柄で互生し、楕円形で短く尖り、縁に細かい鋸歯があり、厚くて滑らか。春に枝先に無柄の大きな花をつけ、下向きに開いて紅色を現す。緑色の萼片は蕾の鱗片と共に屋根瓦を並べたように積み重なって壁となり、5枚の花弁は正面に開かず下向きで、基部で結合する。雄しべは多数で一体となり花冠の付け根に付いて、花の中心に無毛の単子房があり、花柱は3裂しする。
蒴果は球形で果皮が厚く、蒴果を割って2~3個の大きな黒褐色の種子を出し、この種子から椿油を採る。自生の品種をヤブツバキまたはヤマツバキといい、園芸品種はさまざまある。和名は厚い葉の木の意味といい、また葉に光沢があることから艶や葉の木という意味ともいわれる。椿は和字で春盛んに花が咲くからこの字を作った。中国の椿(チン)と混同してはいけない。」
『卓上版 牧野植物図鑑』「ツバキ」の現代語訳(文責筆者)
とても詳細で具体的な記載です。「牧野式」植物図は、彼のこうした観察眼を絵として表現したものに他ならないでしょう。
朝ドラで現在は東京大学理学部植物学教室での生活が描かれていますが、この先ドラマは波乱に満ちてゆくはずです。そして気がかりなのは、牧野の人生において接点のあった、椿にゆかりの深い人物2人、石井勇義と安達潮花が登場するかというところです。しばらくドラマから目が離せなくなりそうです。
参考:
・らんまん, NHK ,2023
・高知県立牧野植物園:https://www.makino.or.jp/dr_makino/
・卓上版 牧野植物図鑑,牧野富太郎,北隆館,2019