夏椿(ナツツバキ)

【椿information】2023-6-22

大気が潤む6月になると、公園や庭先に白い夏椿が咲いているのを見かけます。
夏椿の名は読んでのごとく、夏にツバキのような花を咲かせることからつきました。学名Stewartia pseudocamelliaの「pseudocamellia」も「ツバキに似た(にせツバキ)」という意味です。
大きさは5~7cmくらいでツバキとほぼ同じくらい。白い五枚の花弁を大きく開くところや、雄しべの感じなどが似ているといえるでしょうか。

呼び名なら「シャラ」「シャラノキ」の異名もよく知られます。こちらもインド産のサラソウジュ(沙羅双樹、フタバガキ科サラノキ属の常緑高木)と間違えられたことからつけられた名前。似てるとか、間違えられたとか、何かとアイデンティが弱そうな印象です。

しかし沙羅双樹に間違えられたことで、寺院の庭に植えられることにもなりました。繊細な樹形や赤く美しい樹皮、花は白く、少し波打つ花弁は薄くて軽やかです。寺院の静かな庭の雰囲気にぴったりです。花は終わると、花ごとポトリと地面に落ちます。緑の苔の上に白い花が点々と落ちた様は物静かで美しい風情です。

花が落ちるところはやはりツバキに似ているかもと思いますが、細かなディティールが似ているかどうかよりも、昔の人は、夏に涼やかな雰囲気で私たちの目を楽しませてくれる美しい花であることが、冬の美しい花の代表であるツバキを想起させたのかもしれません。

参考:

新訂原色樹木図鑑、邑田仁監修、北隆館,2004

NHK「らんまん」牧野富太郎と椿(その2)

【椿information】2023-6-8

著作の中のツバキ

牧野富太郎は学術的な書物の他にも植物を題材にした随筆を多数書いています。気軽に読めて、植物の見知らぬ一面を知ることができる内容で、多くの人に植物に親しみ理解してもらいたいという牧野の気持ちがにじみ出ているようです。その文章は伸びやかで、独特な牧野節が炸裂しています。

ツバキについて書かれた文章は、「ツバキ、サザンカ並にトウツバキ」「珍説クソツバキ」「中国の椿の字、日本の椿の字」などがありますが、その中で繰り返し書かれているのが、ツバキの漢字のことです。

書かれた内容を簡単にまとめると、だいたい以下のような内容です。

・ツバキ科ツバキ属のツバキ(Camellia japonica)を指す「椿」は日本の国字であるが、中国の漢字の「椿(チン)」が示す植物はセンダン科のチャンチン(香椿、Toona sinensis)のことで、両者は別物。

・国字の「椿」を「チン」と音読みするのも間違っている。強いて言えば「シュン」と発音すべき。

・ツバキ(Camellia japonica)を中国語では「山茶」と表記する。

・日本ではサザンカ(Camellia sasanqua)に「山茶花」の漢字を充てたことから「さんさか」の名が付き、音便化して「サザンカ」になったと考える。そのため本来ツバキを示す「山茶」がサザンカに使用されたことから混乱が生じている。

・サザンカ(Camellia sasanqua)を中国語では「茶梅」と表記する。漢字表記をするならそれに準じるのが良い。

ツバキとチャンチン

同じ「椿」の文字を充てられたツバキとチャンチン。花も葉も木の姿も、その姿はあまりにも違います。植物図鑑の図を見れば一目瞭然ですね。

シカはツバキの皮が好き?

また牧野は、シカは椿の皮を好んで喰うから椿を大事がる大島には間違ってもシカを放してはいけない、とも言っています。シカが椿の皮を喰うかは知りませんがリスは好物のようです。シカにせよリスにせよ、昨今の大島はツバキの樹皮がずたずたに齧られて、残念な状況であることに変わりはありません。

オオシマザクラとツバキ

最後に伊豆大島への牧野の提言を紹介しておきます。

「大島桜は大島の誇りであるからこれと同格の椿とともにもっとずっと大量に植え、雲のごとく、また霞のごとき桜の花と、燃るがごとく、また絳帳(こうちょう)のごとき椿の花とで全島を埋めつくし、いよいよ同地をして東海上の花彩島たらしめたら佳いと思う」

「花物語 続植物記」より引用

大島を桜と椿で埋め尽くして花が彩る島にせよとは、何とも牧野らしい、美しい植物で満ちた楽園の姿を示してくれたと思うのです。

参考:

  • 植物記,牧野富太郎,筑摩書房,2008
  • 花物語 続植物記,牧野富太郎,筑摩書房,2010
  • 植物一日一題,牧野富太郎,筑摩書房,2008
  • 新訂原色樹木図鑑、邑田仁監修、北隆館,2004

大島椿椿図書館のページが公開されました

椿油専門メーカー大島椿が設立した「大島椿椿図書館」のページが公式サイト上で公開されました。

「大島椿椿図書館」は、椿に特化した専門図書館です。園芸、植物、歴史、芸術など様々な分野において、国内外の椿について書かれた、あるいは椿をテーマに表現された書籍・雑誌・DVDなどを網羅的に収蔵しています。

実際に手に取って閲覧できる開架式図書館で、開館時間中はどなたでもご利用いただけます。

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毎週木曜日 13:00~17:00(会社休業日、臨時休館日を除く)
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< 住所 >
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