ボタニカルアートのツバキ

【椿information】2023-9-27

NHKの『らんまん』を見ていた方は牧野が描く植物画の精密さに驚いたと思います。写真がない時代に植物の姿を正確に伝えるには植物画に頼るしかありません。牧野富太郎が作った図鑑に載るのももちろん挿絵です。最近の図鑑は写真が主流ですが、実物を見て同定する時、実は写真よりも精密で特徴をとらえた植物画の方が分りやすいこともあります。

ツバキを世界で初めての植物学的に描いた図は、江戸時代に来日したケンペルの『廻国奇観』にあります。リンネは実物のツバキを見ることなくこの図を基に学名を付けました。それだけ優れた植物画は、学問を支える大切な一部なのです。

精密に正確に描かれた植物画は美しく味わい深い絵画にまで発展して「ボタニカルアート」になりました。ボタニカルアートは植物学(BOTANY)における視覚資料であり、同時に絵画(ART)でもあります。

今年の5月に椿のボタニカルアートの本『ベトナムのツバキとポリスポラ』が出版されました。画家の角田葉子さんはこれまで数多くのツバキの植物画を描いています。

ベトナムツバキの調査にも同行していて、この本はその探索の成果でもあります。その植物の有りようをわかりやすく正しく伝える美しくて精密な線、実物の質感すら伝える着色、部位を絶妙に配置した紙面。さらにこの本では発見したツバキの解説が日本語(箱田直紀博士)と英語(Dr.Tran Ninh)でついていて、見応え読み応えのある1冊となっています。大島椿椿図書館に蔵書がありますのでじっくりご覧ください。

ベトナムのツバキとポリスポラ表紙 角田葉子

芸術の秋です。せっかくなので実物の植物画に触れてその魅力を堪能してはいかがでしょうか。近々開催されるボタニカルアート展をお知らせします。角田葉子さんも椿の植物画を出展しています。「アザレアツバキ」と江戸椿の「紅千鳥」です。

第53回ボタニカルアート展

日時:2023年10月9日(月・祝)~14日(土)10:30~18:00(最終日~15:00)

場所:ギャラリー・ムサシ 東京都中央区銀座1丁目9-1 K・Iビル

引用・参考:

ベトナムのツバキとポリスポラ、角田葉子、日本園芸協会、2023

第53回ボタニカルアート展案内状

椿の実の収穫

【椿information】2023-9-14

今年もまた椿の実の収穫と搾油の時期になりました。大きく育った木から実を収穫するのは大変で、手の届かない実を脚立に登って採ったり、高枝切りバサミを使って枝ごと切って採ります。

高枝切りバサミのなかった時代はどうしていたかというと、木に登って採っていました。または下草をきれいに払ってから地面に筵や布を敷き、その上に木から実を振り落したり、棒で引っかけて落してから拾いました。収穫の頃合いは、実の中が黒くなってちょっと割れてきたころを見計らうのだそうです。

下の絵は1933年に清水柳太という画家が描いた『大島風俗』という伊豆大島の風俗を描いた絵巻物の中の絵です。木に登るのは女性達ばかり。みな笑顔です。絵には「椿の実を採りながらアンコたちは朗らかな聲で唄う」と添え書きしてあります。採った実は頭や腰に付けた小さな籠に入れました。

かつての大島では椿油作りは女性の仕事でした。重労働ですがよい現金収入になります。「だから奥さんの方がお金持ちだったのよ」と島の女性は笑って教えてくれました。椿油作りは女性の仕事ではなくなりましたが、明るくたくましい大島の女性は今でも健在です。

『大島風俗』清水柳太(伊豆大島文化情報館・藤井工房所蔵)

参考文献

・大島風俗、清水柳太、1933、伊豆大島文化情報館・藤井工房(旧「伊豆大島木村五郎・農民美術館)所蔵