【椿information】2023-6-8
著作の中のツバキ
牧野富太郎は学術的な書物の他にも植物を題材にした随筆を多数書いています。気軽に読めて、植物の見知らぬ一面を知ることができる内容で、多くの人に植物に親しみ理解してもらいたいという牧野の気持ちがにじみ出ているようです。その文章は伸びやかで、独特な牧野節が炸裂しています。
ツバキについて書かれた文章は、「ツバキ、サザンカ並にトウツバキ」「珍説クソツバキ」「中国の椿の字、日本の椿の字」などがありますが、その中で繰り返し書かれているのが、ツバキの漢字のことです。
書かれた内容を簡単にまとめると、だいたい以下のような内容です。
・ツバキ科ツバキ属のツバキ(Camellia japonica)を指す「椿」は日本の国字であるが、中国の漢字の「椿(チン)」が示す植物はセンダン科のチャンチン(香椿、Toona sinensis)のことで、両者は別物。
・国字の「椿」を「チン」と音読みするのも間違っている。強いて言えば「シュン」と発音すべき。
・ツバキ(Camellia japonica)を中国語では「山茶」と表記する。
・日本ではサザンカ(Camellia sasanqua)に「山茶花」の漢字を充てたことから「さんさか」の名が付き、音便化して「サザンカ」になったと考える。そのため本来ツバキを示す「山茶」がサザンカに使用されたことから混乱が生じている。
・サザンカ(Camellia sasanqua)を中国語では「茶梅」と表記する。漢字表記をするならそれに準じるのが良い。
ツバキとチャンチン
同じ「椿」の文字を充てられたツバキとチャンチン。花も葉も木の姿も、その姿はあまりにも違います。植物図鑑の図を見れば一目瞭然ですね。
シカはツバキの皮が好き?
また牧野は、シカは椿の皮を好んで喰うから椿を大事がる大島には間違ってもシカを放してはいけない、とも言っています。シカが椿の皮を喰うかは知りませんがリスは好物のようです。シカにせよリスにせよ、昨今の大島はツバキの樹皮がずたずたに齧られて、残念な状況であることに変わりはありません。
オオシマザクラとツバキ
最後に伊豆大島への牧野の提言を紹介しておきます。
「大島桜は大島の誇りであるからこれと同格の椿とともにもっとずっと大量に植え、雲のごとく、また霞のごとき桜の花と、燃るがごとく、また絳帳(こうちょう)のごとき椿の花とで全島を埋めつくし、いよいよ同地をして東海上の花彩島たらしめたら佳いと思う」
「花物語 続植物記」より引用
大島を桜と椿で埋め尽くして花が彩る島にせよとは、何とも牧野らしい、美しい植物で満ちた楽園の姿を示してくれたと思うのです。
参考:
- 植物記,牧野富太郎,筑摩書房,2008
- 花物語 続植物記,牧野富太郎,筑摩書房,2010
- 植物一日一題,牧野富太郎,筑摩書房,2008
- 新訂原色樹木図鑑、邑田仁監修、北隆館,2004