椿油ができるまで

【椿information】2022-9-16

椿の実の中には硬い殻に守られた種子が詰まっていて、この種子から椿油はつくられます。

種子は植物の命の素であり、その中身は多量のタンパク質、糖質、脂質の蓄積です。植物よって蓄えられた貯蔵物質の品質や量、タンパク質と脂質の割合などは違うので、私たちは植物の種子によって食糧や塗料、燃料など様々に使い分けます。また搾油も油脂分が多い種子と少ない種子ではそれぞれに適したやり方があります。

椿の種子に含まれる油脂の含有量は35%前後(※1)。油分の多い胡麻は約50%、菜種は40~45%、ひまわりや紅花は約40%、大豆は約20%(※2)なので、中くらいでしょうか。

椿油は圧力をかけて絞る圧搾法で搾油します。工程を簡単に示すと次の通りです。

  1. 実を収穫
  2. 1週間ほど干して実の皮が乾燥して裂けたら、中の種子を取り出す
  3. 種子を1週間ほど天日干しして乾燥させ、余分な水分を除く
  4. 種子を砕いて蒸す。もしくは種子を砕かずに加温する
  5. 搾油具で絞る
  6. 布や和紙でろ過して、ゴミなどの不純物を取り除く
  7. 容器に入れて、椿油の原油が完成

この後に適切な精製を行うと、より油脂の安定性や品質を上げることができます。

圧搾以外の方法で油を取り出すこともできます。例えば長崎県新上五島町の中通島では、かつては椿の種子を殻ごと石臼で砕いて擦り潰し、ペースト状にした種子を大釜で煮る「煮出し法」という方法で製油していました。

その他にも近代以降の製油方法には溶剤を使う抽出法もありますが、椿油がこの方法で製油されているところを私はまだ見たことがありません。 日本では身近な植物であった椿から貴重な油を得ようと、昔から手間暇かけて製油を行ってきました。8世紀以降に胡麻や菜種などの油分を多く含む草種が油原料の主役になっても、椿油は使われ続けます。大量生産はできなくても椿油には優れた性質、身近に摂れる便利さがあったからではないでしょうか。

椿油の製油 煮出し法(上五島町の中通島)

参考文献:

・(※1)ツバキ実の充実時期と油含有率, 長崎県農林技術開発センター・森林研究部門, 2016

・(※2)油脂の科学,食物と健康の科学シリーズ,戸谷洋一郎、原節子編,朝倉書店,2015

【椿の名所】上五島津和崎の椿公園と椿油の製油,つらつら椿https://tsubaki-fan.com/, 2018

・東京油問屋史ー油商のルーツを訪ねる,東京油問屋市場,2000

夏の終わり、椿の種子が熟す頃

【椿information】2022-8-25

8月も終わりに近づくと各地で椿の実が熟して収穫期を迎えます。

木の上で熟した実は分厚い外皮が自然に割れて、中から黒くつやつやした種子が顔をのぞかせます。割れ目はたいてい3つくらいで、これはヤブツバキの子房室(しぼうしつ:種子ができるところ)が3つに分かれているからです。さらにそれぞれの子房室の中には種子の元になる胚珠(はいしゅ)が3つあります。つまり、1つの実の中に最大9個の種子ができる計算です。

とはいえ、これは理屈の話で、実際は5~6個くらいのものも多く、中には種子が1つだけの小さな実もあります。

この種子を絞って作るのが椿油です。

黄金色をした椿油は、肌に、髪に、食用にと、様々に使える優れた油脂で、日本各地で古くから使われてきました。

太陽や地味の恵みを受け、数か月かけて育った椿の種子。

私たちは木が半年かけて実らせたこの種子から椿油を頂くのですから、収穫の時期を迎えて感謝の気持ちを忘れたくないものです。

ヤブツバキの実/撮影:yamatsubakisya
ヤブツバキの実/撮影:yamatsubakisya